前回に引き続き、リクルートホールディングス 執行役員の瀬名波文野さんとあしたのチーム代表取締役社長 高橋恭介との対談をお届けします。
社員の目標管理や評価をするうえで欠かせないのが「面談」ですが、最近話題の「1on1」を筆頭にその重要性は良く語られるものの、「業績や成果に結びつかず、社員のモチベーションも上がらない」と苦戦している企業の声も多く耳にします。
個人の力を大きく引き伸ばすマネジメントに長けたリクルートではどのような面談を実施しているのでしょうか。
また、成果にもとづいて評価する際に必要不可欠な「マイナス評価」も、やり方次第では士気を下げかねず苦慮してしまうところも多いでしょう。
そこで対談後編では、面談のやり方やマイナス評価の考え方について、ディスカッションを行いました。
※本記事は2018年1月16日に公開された記事を一部再編したものです。
【Profile】
瀬名波 文野 (せなは あやの)
株式会社リクルートホールディングス 人事統括室 室長、Indeed,Inc. Chief of Staff
2006年、株式会社リクルート新卒入社。経営企画を経験した後、厳しくもリアルなビジネスの現場を求め、自ら手を挙げて人材採用領域の大手担当営業に。2012年には「いつかは海外で働きたい」という希望を叶えるべく、再び手を挙げてロンドンにある買収先企業へ。後に代表取締役に就任し、220人の現地中業員を率いる。2015年に帰国後は、リクルートホールディングスR&D本部事業開発室室長を務め、2016年より経営企画室・人事統括室 室長。2018年4月執行役員に就任。2016年Forbes Japan「世界で闘う日本の女性55人」に選出。高橋 恭介 (たかはし きょうすけ)
株式会社あしたのチーム 代表取締役社長
大学卒業後、興銀リース株式会社に入社。その後ベンチャー企業であったプリモ・ジャパン株式会社に入社。副社長として人事業務に携わり、当時数十名だった同社を500人規模にまでに成長させ、ブライダルジュエリー業界シェア1位にまで成長させた。2008年には、同社での経験を生かし、リーマンショックの直後に、株式会社あしたのチームを設立。これまで1,100社を超える中小・ベンチャー企業に対して人事評価制度の構築・運用実績を持つ。
面談が終わった後に、どんな気持ちで会議室を出るかが重要。
高橋恭介(以下、高橋):前半では、瀬名波さん自身のキャリアに関連したお話を伺いましたが、後半はリクルートの評価制度が好循環を生み出している秘訣を伺いたい思います。
成果や成長を軸に会社と個人がミッションを握るには、「面談」も非常に重要ではないのでしょうか。瀬名波さんは部下との面談において何を重視しているのですか。
瀬名波文野さん(以下、瀬名波):良い面談って、会議室を出るときにマネージャーもメンバーもこれからのことにワクワクしているんですよね。
面談の目的はメンバーのパフォーマンスを上げることであって、査定のフィードバックをすることや、任せるミッションを説明することはその手段です。
マネジメントをする立場としては、「よし、頑張ろう」と本人が思える状態に持っていくことを意識していますね。それを実現するための私なりのポイントは“レベル感のすりあわせ”です。
売上・コスト・納期など定量的な指標のレベル感をあわせるのは簡単なのですが、定性的な“程度の甚だしさ”の認識をあわせるのは結構難しい。「この状態はbad、これを越えたらgood、ここまで到達できたらwow!」と具体的なイメージですり合わせしないと、認識にギャップが生まれて期待した成果に到達しにくくなります。
逆に言えば、「これが実現できたら楽しくない?」とイメージが共有できれば自分のミッションに意味づけができますよね。それがワクワクに繋がるはずだと考えています。
高橋:今仰ったことの肝は目標の握り方だと感じました。
「あなたに任せる目標はこれです」と単に降ろせば表層的な項目の理解で終わってしまうところを、意味づけをしたりgoodやwow!の程度を示すことで目線をあわせ、向かっていく方向性を示していらっしゃるんですね。
査定・評価もただの点数つけではなく、結果が良くても悪くてもWILLの実現に向けてどうするのかといった会話を重視していらっしゃるのでしょうか。
瀬名波:やっぱり前提にあるのは本人のWILL(どうしたいか)なんです。
だから、期初に「この1年であなたは何を実現するの?」という話はしますし、3年後にどういう姿になっていたいかも「WILL CAN MUSTシート」に落とし込んで会話しますね。
1年という期間は割と今の役割に沿った内容になりがちなんですが、3年後という時間軸で考えると、今のミッションの延長線と、それにとどまらない夢や願望が交差しやすい。
そこを接続して会話するのが、私やリクルートの管理職が意識していることだと思います。
高橋:いま、3年というキーワードが出てきました。弊社あしたのチームでも、「あしたの履歴書」というフレームワークを開発したのですが、これは、30年後のありたい姿を描いてみて、その達成のために3年、10年、20年後には何を実現するのかを考えるフレームなんですね。
「未来起点で発想してみて、今何をなすべきか明らかにする」という点に共通点を感じたのですが、瀬名波さんはWILLをどのくらいの期間で握るべきだとお考えですか。
瀬名波:その意味で言えば、高橋さんが仰った通りだと思います。
リクルートが人事評価で用いるフレームは、紙の上では3年までなのですが、実際の面談では「ところで50歳のときにどんな自分でいたい?」と投げかけますし、若いメンバーには「30歳で何を実現したい?」と問いかけますね。
そして自分自身には、「これは死ぬ時に思い出してニヤつくレベルの仕事なのか?」を問います。こう説明すると「先のことなんて分からない」と思う人もいるかもしれないんですが、私たちは答えを出そうとしている訳じゃないんです。目標とする未来は何度も変えたらいいんですよ。
私も10年前は今の自分を想像もしていませんでした。それでもその時々で自分なりに未来を考えて、ときに方向転換もしながら行動してきたから今があるんだと思います。
一度きりの人生において、主役は他でもなく自分自身。生き方も働き方も、自分で決めた方が絶対に良いに決まってるんですから。
高橋:弊社は、「はたらく人のワクワクをクリエイトする!」というテーマを掲げているんですが、瀬名波さんのお考えは、まさしくこの考えと同じですね。今ワクワクしていない人に、ワクワクを創造すること。そのきっかけになるのは、面談でもあり人事評価制度だと私は思います。
社員の挑戦を期待するなら、機会と報酬はセットで渡すべき!?
高橋:評価制度に関連してぜひ伺いたかったのは、「マイナス評価」のやり方です。
個人の成果に連動した給与体系、つまりアップダウンが前提の人事制度を運用している会社は、リーマンショック後も力強く成長を続けているという分析結果が出ています。
リクルートも成果主義ですので、当然結果が出せなければ下がることもありえると思うのですが、やり方によっては社員のモチベーションを著しく下げかねないですよね。だからこそ導入を躊躇する会社が多いことは、私も肌で感じています。
「挑戦しても失敗して給与が下がるくらいなら、現状維持でいいや」と思う人がいてもおかしくないと思うのですが、リクルートはなぜマイナス評価も恐れず挑戦できる人が多いのでしょうか。
瀬名波:私自身が一番気を付けているのは、マネージャーとメンバーとの日常的な関係性の質ですね。
信頼関係が築けていない上司に、いくら大きな仕事を任されても「期待」とは受け取れないですし、評価を下げられたら納得いかないものだと思います。
また、これは私個人の意見なんですが、「身の丈以上の仕事を任せるなら、給与はその時点で上がっているべき」だと思います。
まずは会社が期待の大きさを報酬で示し、もし結果が出なければ「ごめん、ちょっと早かったかもね」と下げた方がお互いに納得が行きやすい。「これは身の丈以上のチャレンジだよ」という認識のすりあわせが前提にあれば、たとえ上手くいかなくても結果に対して前向きでいられると思うんです。
高橋:成果の大きさで報酬が決まることが原則なものの、チャレンジさせるときはその人への期待の意味で“投資”をするということでしょうか。
結果が出ればその報酬は正当な評価だし、失敗したときは投資を見直す、つまり給与が下がるという解釈ができそうです。
リクルートの評価制度の思想には、個人の未来に向けた投資という側面が入っている気がしました。
瀬名波:もちろん、実際には仕事と報酬の上り方は人それぞれなんです。同じグレードのままちょっと背伸びさせてみて、状況を見ながらグレードを上げるという場合もあれば、グレードの階段を一段飛ばしで任せた方が伸びるタイプもいます。
マイナス評価をする際も、必ずしもダメだったからすぐ降格という訳ではなく、結果をお互いに認識したうえでまた1年チャレンジさせる場合もあれば、違う仕事の方が向いていると見えたなら新しい環境に移るのもひとつのやり方です。
いずれにしろ考え方として間違っちゃいけないのは、メンバーをマイナス評価する際、その責任はマネージャーにあるということ。
たとえメンバーが手を挙げた仕事だとしても、最終的に任せたのは他でもなく上司であり会社ですから、「ちょっと急がせすぎちゃったね、ごめん」「今回のやり方はあなたに合っていなかったかもしれないので、こっちの上り方をしてみようか」という姿勢やアプローチで人事評価を伝えることは意識していますね。
高橋:ここまでの瀬名波さんの発言やリクルートの事業成長の軌跡を踏まえると、やはり昭和時代のやり方であった「無制限雇用」が限界なのかなと感じました。
これからの時代、日本は無制限雇用から脱却せねば、生き残っていけないのではないでしょうか。
個人の事情はお構いなしに全国転勤させることを筆頭に、日本の雇用のあり方は今様々な観点で問題になっていると思うのですが。
瀬名波:実を言うと、私は無制限雇用を絶対悪だとは思っていないんです。これは私が海外での経験があるからかもしれません。
それぞれが明確な業務分掌でプロフェッショナルとして働く欧米的なやり方だと、いくら優秀な人材を高額な報酬で集めても、お互いの仕事の境目に飛んできたボールは誰も拾わないといったことが平気で起きます。
経験上、気づいた人がボールを拾いに行く日本的なやり方は、事業の競争優位に結びついている面も確かにあって、何が正しいのかというベストな解は、まだ私にもないですね。
きっと、業態や企業のコンディションによって正解は異なるんだと思います。
高橋:では、最後に人事統括室の室長として瀬名波さんが今取り組んでいることについて教えてください。人事評価制度の好事例を沢山お持ちのリクルートにおいて、今後どんな施策が生まれそうなのでしょうか。
瀬名波:前半にお伝えしたことと関連しているのですが、個人の強みが組織や事業へ良い影響を与え続ける仕組みや風土へと進化させたいと検討しています。
リクルートホールディングスには、国内外を含めたリクルートグループを横断的に統括・支援するバックオフィス機能が集約されているのですが、すでに半数以上が2012年のリクルート分社化以降に中途入社したメンバー。
バックグラウンドも様々で、実に多様な価値観・考えをもつ人たちが集まっているんです。こういった組織がどうすればさらにパフォーマンスが上がるのかを考え続けていますね。
お互いの違いや個性を「尊重する」くらいでは、ちょっと弱い。「私は私、あなたはあなた」と認めあうのが欧米的なら、リクルート的な発想では、お互いの違いを褒め合い「面白がる」というところまで行きたいんです。
それくらい関係性が良好なら、たとえ意見が食い違っても活発に議論ができる。そういう組織でありたいですね。
高橋:そこに人事として取り組むということは、風土の醸成だけではなく、仕組みも必要だとお考えなんですか。
瀬名波:風土と仕組みの両方だと思います。こういうものって、仕組みだけだとしらけてしまいがちだし、面白がりましょうとメッセージを発信するだけでも絶対上手くいかない。両輪で進めていくことが重要だと考えています。
私たちの現状で言うと「日本語が通じる人」という世界で見たらごくマイノリティの集まりなのに、考え方が多様だなと感じます。昨今では同じフロアで多言語が飛び交い、まさしく経験も価値観も違う人々の集まりという状況になり、さらに多様性は広がっているはず。
だからこそ、多様性を「尊重」するだけでなく、どう「活かす」かがすごく大事ですね。
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