立教大学 田中道昭教授が描いた、自身の「あしたの履歴書」 ~インタビュー前編~

立教大学ビジネススクールの教授である田中道昭さん。現在は教授としての立場に加えて、上場企業の取締役、経営コンサルタント、出身県の政策ブレインを務めるなど広く社会に貢献している田中さんですが、もともとは銀行員として自身のキャリアをスタート。30代半ばまでは、銀行の外で活躍する自分を想像もしていなかったそうです。

しかし、現在の活動は偶然手にしたものではなく、自ら超長期の目標を掲げて愚直に行動した結果、実現させたものだと語る田中さん。その道のりで重要なポイントは何だったのか、ご自身の「あしたの履歴書」を紐解きながらお話いただきました。

【Profile】
田中 道昭(たなか みちあき)

「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」、立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授、シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。主な著書に、刊行以来、実践経営・リーダーシップ部門でベストセラーを続けている『アマゾンが描く2022の世界―すべての業界を震撼させるベゾスの大戦略』(PHP研究所)。最新刊は『あしたの履歴書』(あしたのチーム代表 高橋恭介との共著、ダイヤモンド社)。

■生涯をかけて実現するミッション(使命)に気づいたことが転機になった

―田中さんは、三菱銀行(現:三菱東京UFJ銀行)のご出身ですよね。まずは銀行時代の歩みから教えていただけますか。

田中さん:最初に配属されたのは神保町支店でした。1年目は学生気分が抜けず、上司に社会人として銀行員としての教えを厳しく指導いただきました。なかなか成果を出せずに苦労しましたし、辞めようと思ったことが何度もあります。本当に「劣等生」でした。でも、この間にビジネスマンとしての基礎を徹底的に叩き込まれたことが、すべての原点になっています。2年目からは何とか支店や顧客にも貢献できるようになり、3年目の半ばには本社のプロジェクト開発部に異動することに。その年次で本社勤務になるのは早い方でしたし、任される仕事も取引企業が海外でプラントやインフラを開発する際の大型ファイナンスを担うという重要なものでしたから、当時の私も目の前の仕事に使命感を持って取り組んではいたんです。

―その後はMBA留学もされていますし、海外赴任もされていますよね。一般的な感覚では「エリートコース」だったように感じるのですが、銀行を離れる決断をしたのはなぜなのでしょうか。

田中さん:たしかに留学をさせてもらったときも、その学びを得て銀行の仕事でより意義の高い仕事に挑戦したいという気持ちが強く、社内でキャリアアップしていくことに迷いはなかったですね。でも、今振り返ると、ただがむしゃらに前に進むだけで、その仕事を続けた先に自分自身が何を実現したいのかが欠けていたのです。

転機になったのは、97年に起きたアジア通貨危機。当時はシンガポールの現地法人に赴任していたのですが、金融・経済市場は一変し、各国の優良企業が次々と破綻するという状況に。自分一人の力ではどうすることもできない事態に直面してはじめて、「私は、本当は何をするべきなのだろう」と深く考えるようになりました。様々な本を読み漁り、ロールモデルとなりそうな先人たちの歩みを知り、そこでようやく自分の使命が見えてきたのです。私の場合はたまたまアジア通貨危機でしたが、多くの人は“困窮”したときに「自分は何のために生まれてきたのか?」と自問自答するものだと思います。そのときに、このまま流れに身を任せるのではなく、答えを出そうとしたのが一番のきっかけかもしれません。

―田中さんの使命、つまりミッションとはどんなものですか。

田中さん:大きな影響を受けたのが、思想家の安岡正篤、林学博士の本多静六、経営コンサルタントの大前研一の3氏。これらの著書から、10年後には企業の参謀役、20年後には経営大学院の教授、30年後には国家や社会の「参謀役」となる、という目標を30代半ばで掲げました。だからこそ、まずは企業の参謀役となるため、今の環境では得られない力を身につけたいと外に出る決意をしたのです。今は、自身の名「道昭」について「道を照らす」という意味があると思っています。自分の存在を人や組織、さらには社会の道を照らすことにまで高めたい。国恩や世恩に報いることのできる人間になりたい。それが私の現在のミッション、人生目標です。

■荒唐無稽なミッションでも、宣言することで灯台の灯りになる

―その後は現在の立場も含め、描いた通りの道を歩まれています。これを実現させるポイントはどこにあったのでしょうか。

田中さん:ミッションを掲げてからの約20年は、決して平坦な道のりではありませんでした。山もあれば谷もありましたし、私は人よりも困難の多い道のりだったと思います。けれど、その経験からひとつ言えるのは、「何かを実現する前には、必ず大きな谷が待っている」ということ。失敗したり、乗り越えるのに困難な壁が立ちはだかっているときに、それでも自分が掲げた目標に向けて諦めずに努力を積み重ねていると、次第に道が開けて大きな山を登れるんです。

また、「国や社会の参謀役として広く世の中に貢献する」という自分のミッションを、共に働くみなさんやお会いした方々に時としてお話してきたこともポイントだと思います。

―ミッションを宣言するのは、「有言実行であれ」ということでしょうか。

田中さん:それもひとつの側面ですね。長期的に描いたキャリアを実現するには、自らの胸の中に秘めているだけでは難しい。自分を律するためにも、鼓舞するためにも有効です。また、自分が実現したいミッションを伝え続けていると、ときに大きな共感や賛同を呼び、協力してくれる人や仲間に出会えました。そのときの実力では荒唐無稽な夢物語だと思われたかもしれませんし、「そんなバカなこと」と思った人もいるはずです。それは現在でも同様だと思います。けれど、それでも言い続け、使命感をもって努力をしていると、「一緒に実現したい、協力したい」と言ってくれる人や企業・組織が必ず現れます。ミッションは、灯台の灯りのように進むべき道を指し示してくれるもの。私が道に迷わないのはもちろん、その灯りに仲間が集うという効果もあるのだと実感しています。

―自分のミッションが、周囲の人に与える影響も大きいということですね。

田中さん:ミッションは遠い未来と足元を照らす灯りですが、一方で先のことばかりをみて足元を疎かにすると躓いてしまうものです。だからこそ、私が常日頃大切にしているのは、「凡事徹底」。なにごとも当たり前と思わず、有り難いことであると謙虚に感謝の心を忘れず、努力を積み続けていくことが大きな目標を実現していくためには必要だと痛感しています。それは私なりの信念でもありますし、大企業の経営陣の皆さんも多くの方が「凡事徹底」を大切にされています。私は企業向けの研修講師を務めることも多いのですが、幹部研修に参加された方に御礼のメールをお送りすると、すぐに返信があるのは、担当者ではなく経営者本人などトップの方々であることが多いです。どんなに多忙でも、そうした基本を疎かにしないことが、大きなミッションを実現するには必要不可欠なんだと、心を律しています。

――インタビュー後編では、田中さんの新刊である『あしたの履歴書』を踏まえながら、個人のキャリアデザインと企業経営の関係性についてお話を伺いました。次回もお楽しみに。

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