前回に引き続き、岩本隆特任教授とあしたのチーム代表・髙橋恭介の対談をお届けします。働き方改革の必要性が叫ばれていますが、その歩みは道なかば。世耕経産大臣も「働き方改革を進めるには、HRテクノロジーの活用が必須」というメッセージを発信しています。では、中小企業はどのようにHRテクノロジーを活用すればいいのでしょうか? 従業員エンゲージメントの重要性も含めて、本質的な経営論を語りあってもらいました。
【Profile】
岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科を卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より現職。DIでは「技術」「戦略」「政策」の融合による産業プロデュースなど、戦略コンサルティング業界における新領域を開拓。慶應義塾大学では「産業プロデュース論」を専門領域として、新産業創出に関わる研究を実施。著書に『HRテクノロジー入門』(ProFuture)。
髙橋 恭介(たかはし きょうすけ)
株式会社あしたのチーム 代表取締役
千葉県松戸市生まれ、千葉県立船橋高校出身。東洋大学経営学部卒業。
2008年、株式会社あしたのチームを設立、代表取締役に就任。現在、国内47全都道府県に営業拠点、台湾・シンガポール・上海・香港に現地法人を設立するまでに事業を拡大。1300社を超える中小・ベンチャー企業に対して人事評価制度の構築・クラウド型運用支援サービスを提供している。著書に『給与2.0(アスコム)』など。
■論理的な欧米企業、カンと経験と慣習で判断する日本企業
―欧米と比較すると、日本はHRテクノロジーの活用が遅れているんですか?
岩本隆さん(以下、岩本):そうですね。大きな理由は、欧米と日本の経営スタイルがまったく違うから。欧米企業の経営は論理的ですが、日本で論理的に経営判断を下している会社がどれだけあるでしょう? カンと経験と慣習でものごとを決める文化が根づいているので、「データを活用しよう」という意識自体がありません。
でも人事データを活用すると、簡単に利益率が上がるんですよ。日本企業はムダが多いので、半年くらいで成果が出る。2015年に慶應義塾大学大学院で「HRテクノロジーシンポジウム」を開いたところ、翌年に導入企業の成功事例が出てきました。いわば、2015年が“HRテクノロジー元年”ですね。
―働き方改革には「長時間労働の是正」と「生産性向上」という2つの目標があり、どちらも多くの中小企業が苦労しています。HRテクノロジーの活用も含めて、課題解決のアドバイスをお願いします。
岩本:長時間労働の是正については「労働は苦役である」という前提を変えなければいけません。つまり、従業員が楽しく仕事に取り組めるような環境を企業側が整える。産業競争力という観点からも、仕事が楽しくなって、業績も上がる働き方が重要です。
髙橋恭介(以下、髙橋):そういった流れのなかで「従業員エンゲージメント」という考え方が急速に広がってきました。自発的に貢献する企業文化を醸成することが本質的に重要なんだと。
岩本:おっしゃる通り。日本人には聞きなれない言葉ですが、もはや世界的な潮流です。以前から私はエンゲージメントの重要性を訴えていました。
髙橋:直訳すると“婚約”という意味ですよね。
岩本:はい。労使関係を結婚前の男女の関係になぞらえると、理解しやすいでしょう。日本企業のエンゲージメントスコアは総じて低く、相思相愛とはいえません。対等な男女関係というよりも、束縛される親子関係のようです。
■エンゲージメントとは、企業と従業員が互いにコミットしあう関係
―エンゲージメントの向上が業績アップにつながるんですか?
岩本:そうですね。エンゲージメントとは、労使が互いにコミットしあう関係性。つまり、企業は従業員がイキイキと働けるようにコミットして、従業員は企業の業績アップにコミットします。
わかりやすく言えば、青学大の陸上部はエンゲージメントの高い組織です。みんなイキイキと練習して、箱根駅伝で活躍していますよね。一方、日大のアメフト部はエンゲージメントが低い。短期的には強くても、どこかでほころびが出ます。
髙橋:ビジネスの世界も同じです。短期的には儲かっても、従業員に愛されない企業は長続きしません。ただし、従業員満足度(ES)と従業員エンゲージメントは似て非なるもの。短期的な満足度を上げるために、大切な社風や不文律まで破壊すると、従業員のモラルハザードを招きかねないでしょう。
―エンゲージメントを向上させるために、有効なHRテクノロジーはありますか?
岩本:よく使われているのは「パルスサーベイ」ですね。パルスは“心臓の鼓動”という意味で、心臓の鼓動と同じくらいの頻度で頻繫に調査をくりかえす手法をさします。
以前はエンゲージメントの指標を分析するのに数ヵ月かかっていましたが、いまはスマホで簡単に入力して翌日に分析結果が出る。だから、課題を抽出して改善するサイクルをスピーディーにまわせるんです。同じように、あしたのチームさんのツールも有効かもしれません。
髙橋:当社のコンピテンシークラウド™(人事評価システム)は、パルスサーベイのようなスピード感でPDCAサイクルを回せます。目標設定や上司とのやりとりをクラウド上で管理し、週次でフィードバックするんです。
岩本:同時期にフィードバックできるんですね。
髙橋:はい。これまでの目標管理は年1回が普通でした。エクセルで作った紙を「査定の期日だから…」と机からひっぱり出し、記憶を頼りに評価業務を行っていたんですよね。
岩本:エンゲージメントに関するHRテクノロジーは発展途上の段階なので、これから多様な方法が出てくるでしょう。最近は自律神経や脳のデータをとって、従業員の活性度を測る試みもあります。
■テクノロジーは難しくない。まずは基本的な人事業務をクラウド化
―HRテクノロジーの導入にあたって、中小企業へのアドバイスを聞かせてください。
岩本:大企業のような余裕はないので、まずは基本的な人事業務にクラウドシステムを使うといいでしょう。つまり、採用・育成・労務管理・人事評価ですね。クラウドを活用すれば、人事担当者を雇わずにすみます。その後にエンゲージメントを高めるためのツールなど、次のステップを検討してください。
髙橋:まったく同意見です。でも「クラウドシステムに毎月3万円かかります」と聞くと、「高い!ウチは税理士も弁護士も月1万5000円だ!」と反発する経営者も少なくない。もっと費用対効果の視野を広げて、外注費と社内リソースの生産性を比較すべきです。自前主義にこだわらず、いいものに投資してほしいですね。
岩本:私たち経営学者も悪いんですが、「日本の常識・世界の非常識」はたくさんあります。日本企業がデータをもとに判断するようになれば、おかしな考え方に気づくでしょう。
髙橋:いまだに人事業務はアナログ感覚ですよね。スマホの地図アプリではなく、紙の地図を見ながら移動しているようなイメージです。
岩本:「テクノロジー」と聞くと、技術者以外の人は身がまえてしまうかもしれません。でもテクノロジーの進化とは、誰でも使えるようになること。小難しいことじゃありません。まずは経営者の“テクノロジーアレルギー”を取り除くことをおすすめします。
―従業員エンゲージメントも含めて、なによりも経営者の考え方が大事なんですね。本日は勉強になるお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
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