AI時代に求められるのは「度胸」「愛嬌」「勉強」だ  ―経産省 伊藤禎則 総務課長×髙橋恭介 対談後編―

中編に引き続き、経済産業省の伊藤禎則さんとあしたのチーム代表・髙橋恭介の対談をお届けします。野村総合研究所によると「2025年~2035年には、日本の労働人口の約49%が人工知能やロボットなどで代替可能になる」と推計されています。テクノロジーが加速度的に進化するなか、中小企業の経営者はどのように対処すればいいのでしょうか? 後編では、HRテクノロジーを活用するためのポイント、AI時代に求められる経営者の要件などについて語りあってもらいました。

【Profile】
伊藤 禎則(いとう さだのり)
経済産業省 商務情報政策局 総務課長
1994年、通産省(現:経産省)へ入省。東京大学法学部卒、コロンビア大学ロースクール修士、ニューヨーク州弁護士。これまでにエネルギー政策、成長戦略などを担当。筑波大学客員教授、大臣秘書官などを経て、2015年10月に産業人材政策室の参事官に就任。働き方改革、副業・兼業促進、IT人材育成、経営人材育成など、人材・労働関係政策を広く担当。2018年7月より現職。「人材」の観点を大切にしながら、AI・IT政策全般を統括している。

髙橋 恭介(たかはし きょうすけ)
株式会社あしたのチーム  代表取締役会長
千葉県松戸市生まれ、千葉県立船橋高校出身。東洋大学経営学部卒業。

2008年、株式会社あしたのチームを設立し、代表取締役に就任。2018年6月より現職。現在、国内47前都道府県に営業拠点、台湾・シンガポール・上海・香港に現地法人を設立するまでに事業を拡大。1300社を超える中小・ベンチャー企業に対して、人事評価制度の構築・クラウド型運用支援サービスを提供している。著書に『給与2.0』(アスコム)、『覚悟の人生』(幻冬舎)など。

(前編)働き方のルールチェンジからマインドチェンジへ ―経産省 伊藤禎則 総務課長×髙橋恭介 対談―

(中編)来るべき変革期に備えて、IT投資を成功させよ ―経産省 伊藤禎則 総務課長×髙橋恭介 対談―

人事業務の課題を明確化し、重点分野にHRテクノロジーを活用

―HRテクノロジーの活用にあたって、中小企業の経営者にアドバイスをお願いします。

伊藤禎則さん(以下、伊藤):まずは、人事業務の課題に優先順位をつけるのが大切です。ひとくちに「HRテクノロジー」といっても、どんな症状にも効く万能薬はありません。最大の課題は人材採用なのか、人材育成なのか、人事評価なのか。重点分野にフォーカスして、それに適したツールを活用してください。

髙橋恭介(以下、髙橋):あえて平易な表現を使えば、「まずはやってみる」という精神が大事です。気軽にトライアル・アンド・エラーをくりかえす。たとえば70代の経営者が当社のクラウドサービスを使っているんですが、そのきっかけは好奇心。そこからスマホの扱いにも慣れて、いまではLINEやメルカリを使いこなしています。

なにより、成功している経営者は発想が柔軟です。「オレがわからなくたって、まず新しいモノを使ってみるんだよ」なんて、すぐ行動に移せる。投資に失敗したくない気持ちはわかりますよ。でも、ワクワクする気持ちを大事にして、まずはやってみることをおススメします。

伊藤:そうですね。そのきっかけとして、政府の政策支援があります。さらに、働く社員にメリットを感じてもらうのも大切です。

たとえば、領収書の管理や経費精算は面倒ですよね。そういった煩雑な作業が劇的に変わると、「こういうことか」と腹に落ちる。そういった小さな進歩から「テクノロジーを活用して、働き方改革を進めよう」という気運が高まっていくでしょう。

AIに仕事を奪われるのではなく、仕事の性質が変わる

―野村総合研究所の発表によると「2025年~2035年には、日本の労働人口の約49%が人工知能やロボットなどで代替可能になる」と推計されています。AIの進化に備えて、経営者はなにをすべきですか?

伊藤:私はAI政策が本務なので、まずは見通しをお話しします。経産省は「新産業構造ビジョン」を発表しました。その策定にあたって、AIが人間の仕事や雇用にどのような影響を与えるかを詳細に調査し、あることが明確になりました。それは「なくなる仕事もあれば、新たに生まれる仕事もある」という当たり前の結論です。

わかりやすい例は、駅員の仕事。私が子どもの頃は駅員さんが改札で切符を切っていましたが、いまは切っていません。自動改札機に代わりました。同じように、今後は自動運転によって運転士がいなくなるでしょう。

でも車掌は簡単になくなりません。その仕事は満員電車に乗りこむ人を押しこんだり、酔っぱらいのケンカを仲裁したり、倒れた人を介抱したりと非常に幅広い。出産しそうな乗客がいれば、電車を停めて、車内放送を流して、タオルなどを用意します。これらはAIがもっとも苦手なタスク。しがたって、AIに「仕事を奪われる」というよりも、「仕事の性質が変わる」と考えるべきです。

―そういった見通しをふまえて、経営者へのアドバイスを聞かせてください。

伊藤:髙橋会長にならって、あえて平易にお答えしましょう。披露宴のあいさつのようですが、AI時代に、経営者には3つの“キョウ”が必要と考えています。

1つめは「度胸」。まずやってみる、という精神です。AIは処理速度が非常に早く、自ら学習もできます。でも、新しい課題を設定することはできない。だから、人間が課題を設定して、いろんなことをやってみる。その指揮をとるのが経営リーダーです。

2つめは「愛嬌」。AIが発達しても、人と人のヒューマンインターフェースは残る。AIって、冷たい印象がありますよね。仮にAIとデータにもとづいて人材採用を行った場合、落とされた人にわだかまりが残るでしょう。そこを解きほぐせるのは人間らしさ、すなわち愛嬌です。

3つめは「勉強」。技術と人材育成のモデルがどんどん変わっていくので、経営者は自ら勉強し続けなければいけません。同時にスキルの賞味期限も短くなるので、社員が学ぶ文化をつくってください。ここが企業競争力の生命線になります。

“情報編集力”を磨き、クリエイティブな仕事に注力せよ

髙橋:元リクルートの藤原和博さんが提言されているように、情報処理力から“情報編集力”が求められる時代になります。つまり、アウトプットのスキルに人間の大きな存在価値がある。だから、AIの進化をピンチではなく、チャンスととらえるメンタリティーが大事です。

実際、人間は苦役のような単純作業や減点主義の仕事から解放されていくでしょう。たとえば、私が興銀グループの企業に勤めていたとき、上司にホチキスの留め方を注意されていました。それだけで書類を突き返された経験が何度もありますよ。

伊藤:ありますよね(笑)。いまだに経産省では「ホチキスの正式な留め方は45度」と決まっています。

髙橋:そういった仕事を全否定するわけじゃないんですよ。AIやロボットが代替するので、人間の役割が代わるんです。楽しく脳を動かして、よりクリエイティブな思考とアウトプットに時間を費やせるようになる。

だから、「仕事がなくなる」という拒否反応ではなく、「ワクワクする仕事が増える」という気持ちをもてば、うまくいくと思います。

伊藤:そうですね。そうしないといけません。

―中小企業がAIを導入する最初の動機は、人手不足の問題を解決するためですよね。

髙橋:そうでしょうね。私は新卒説明会でよく話しているんですが、「売り手市場でラッキー」と喜んでいる学生は危ない。もはや人生100年時代。労働者が有利な状況が未来永劫に続くわけじゃありません。そんな気持ちで就職したら、AIとRPA(ロボットによる業務自動化)が導入された瞬間に仕事を奪われますよ。

伊藤:おっしゃる通りです。AIの進化をチャンスと考える若い人が活躍するといいですね。

髙橋:同感です。これからも伊藤さんは官の立場から、私は民間の立場から、この国の課題を解決していきたいと思います。

―「AIは諸刃の剣」といわれますが、ポジティブに考える姿勢が大切なんですね。本日は貴重な話を聞かせていただき、ありがとうございました。

>>【残席わずか】経産省 伊藤禎則氏 登壇!「日本のAI戦略 ~AI時代に求められる経営人材と企業組織

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