<日本一働きたい会社>を実現する方法 ~LIFULL井上高志社長 特別講演~

<日本一働きたい会社>を目指した経営を続け、「働きがいのある会社」ランキングをはじめとして各種外部機関から評価されているのが、株式会社LIFULL(旧:ネクスト)です。4月20日(金)に行われた「あしたの人事クラブ交流会」では、同社の井上高志社長と、人事本部長の羽田幸広氏が特別ゲストとして登場。LIFULL流「日本一働きたい会社のつくり方」を話してくださいました。今回は、井上社長が経営において重視している考え方やポイントを中心に語る様子をお届けします。

【Profile】
井上 高志(いのうえ たかし)
株式会社LIFULL(旧:ネクスト) 代表取締役社長
1968年11月23日生 神奈川県横浜市出身 青山学院大学経済学部卒 新卒入社した株式会社リクルートコスモス(現、株式会社コスモスイニシア)勤務時代に「不動産業界の仕組みを変えたい」との強い想いを抱き、1997年独立して株式会社ネクスト(現・LIFULL)を設立。インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指し、不動産・住宅情報サイト「HOME’S(現:LIFULL HOME’S)」を立ち上げ、掲載物件数No.1(※)のサイトに育て上げる。2011年からは、海外進出を開始。2014年には世界最大級のアグリゲーションサイトを運営するスペインのTrovit Search, S.Lを子会社化。現在は、国内・海外併せて15社のグループ会社を展開し、世界57ヶ国にサービス展開している。※:産経メディックス調査(2018.1.30)

利他主義を掲げ、「あらゆるLIFEを、FULLに」していく会社

本日は人事・組織に関わる部分で弊社の考え方や取り組みについてお話できればと考えております。よろしくお願いいたします。
まず簡単に弊社の企業概要をご紹介させてください。社名は「LIFULL」。これは2017年4月に変更した名前です。それまでは「ネクスト」。新しい時代をつくるぞという意味を込めてネクストと名乗っておりましたが、あらゆる人々のLIFE(ライフ)をFULL(フル)にしていくという意味で、LIFULL(ライフル)という造語を掲げました。東証一部に上場しておりまして、設立は97年。現在では国内外含めて1200名を越える社員がおります。

次に、弊社はビジョナリー経営を目指しておりますので、社是と経営理念についてお話させてください。
まず一番大切な価値観である社是は『利他主義』を掲げています。これは、「世のため人のために働くことが、働く原点である」という考えに基づきます。

それから、50年後100年後に向けて何を実現していくのかを示した経営理念は、『常に革進することで、より多くの人々が心からの「安心」と「喜び」を得られる社会の仕組みを創る』。既成概念を突破し、世界中の人々が幸福になるような社会の仕組みを、イノベーティブに創造していくことを指向しています。

この社是や経営理念に紐づくビジョンとして掲げているのは、社名の意味でもある「あらゆるLIFEを、FULLに」。性別も年齢も言語や国も超えて、多様な人々のLIFE(人生/暮らし)を満たしていけるような会社になりたいというメッセージです。

100の会社をつくり、社員の挑戦機会を増やしていく戦略

LIFULLの事業は、97年の会社設立前に私が不動産・住宅情報サイトの「HOME’S(現LIFULL HOME‘S)」をつくることを目指してスタートいたしました。それが現在、「LIFULL HOME’S」は国内最大掲載物件数を誇るサイトとなり、企業としても2020年までに売上高500億円以上、EBITDA率20%前後を実現していこうとしている状況だとご理解いただければと思います。

その中期計画に紐づく戦略のひとつとしては、2025年までに100のグループ会社をつくり、100人の真の経営者を育てて、100ヶ国展開をしようというもの。今すでに、グループ企業は15社あり、出資先も9社ございますが、なぜ100社をつくるのかといえば、組織が大きくなりすぎるとセクショナリズムが起こりはじめるからです。また、大企業の巨大なピラミッド構造は、現場のイチ社員がモチベーションを保ちにくいという現象も起こりがちになります。それらを回避し、社員全員が「世の中を幸せにする」ことをどんどん進めていくには、組織を細かく分けた方がいいというのが私たちの基本的な考え方です。

また、子会社を増やすもう一つの目的は、「経営者を育てる方法は、経営者になるしかない」ということ。私自身も20年にわたって「起業家」や「経営者」という肩書ですが、経営者は教育プログラムでは育てられないものだと実感しております。そのため、ゼロから会社を立ち上げる起業家とほぼ同等の経験を積んでもらうために、会社の経営に挑戦する機会を提供しています。失敗してもいい、2度3度と挑戦しながら、真の経営者になってほしいという想いが込められています。

すべてのステークホルダーに報いるための「同心円経営」

さて、ここまでは社是や経営理念をベースに経営戦略もご説明して参りました。これらを実践しながら、私たちは世界中の「不満」や「不安」や「不便」といった「不」をビジネスで解消していきたいと考えています。不満を取り除いて満足に、不便を取り除いて便利にといったことを、事業を通じて実現していきたいのです。
では、そのために「どのような会社をつくってきたのか」というのが、今回お話したいメインテーマです。

LIFULLのベースとなる経営の考え方は、「同心円経営」。同心円経営は、円の中心に社是である「利他主義」があり、ここから「コンシューマーにとっての利他とは何か?」「クライアントにとっての利他は何か?」「従業員にとっては?」「パートナー、株主、地球環境…」と考えていきます。つまり、「従業員に対する利他とは何か」と考えたときに、私たちは「日本一働きたい会社という場つくることで、一人ひとりが“働いて良かった”と実感できること」だと定義し、その実現にこだわってきたのです。

そして、同心円という形にも注目してください。つまり、どのステークホルダーにも偏っておらず、同じ距離感ですべてを重んじているということです。これは、マルチステークホルダーという考え方で、株主資本主義とは大きく異なります。「誰のための事業か」という観点は非常に重要で、たとえば株主を第一にすると、円の中心が株主側にズレたような図になり、「株主へどれだけ利益を還元できるか」を優先するようになります。すると、厳しいときには従業員の首を切ってでも株主に還元するという選択をしかねませんし、粗悪なサービスでも利益が出せれば良いという行為に走りかねません。正しい経営とは何なのかを考えた結果が同心円経営なのです。

また、これに従って、私たちは利益の四分法というルールを設けています。国に税金を納め、残りの利益は、「従業員」「会社」「株主」で均等に分けましょうという考え方。営業利益が計画よりもたくさん出たら山分けをし、出なかった分は痛み分けということですね。

それから、公益志本主義の達成度を評価する指標「LVAS(LIFULL Group Vision Achievement Score)」というものも独自につくっております。これを定めたのは、今後グループ会社が100社、200社と増えていけば、どうしても目が届きにくくなるという弊害も起こり得るからです。LVASはグループ会社の代表と役員の評価制度に直結しており、財務指標などに加えて、社員満足度や、株主へのリターン状況など、各ステークホルダーへの貢献度を測定して、その結果によって各社長の給与の上限が決まるという仕組み。ですから、あるグループ会社の社長が、「俺はもっと稼ぎたい」と思っても、誰かを犠牲にしてまで利益をあげるのは意味がなく、全ステークホルダーにとって「良い会社」をつくるしかないのです。余談ですが、このLVASは世の中の会社を評価する指標にも使えると考えており、先々には評価の仕組みをオープン化し、社会へと広げていければと思っております。

また、社会というステークホルダーに対しては、「社員年間総労働時間の1%と前年度の税引き後利益の1%を使って、社会貢献する」という制度があります。これは、社員が特別休暇を使って、社会貢献活動に参加でき、その活動に必要な経費は会社が負担するというもので、たとえば熊本の震災復興ボランティアや、中国のゴビ砂漠で植林活動に参加するなど、従業員がそれぞれの考えで世界中の活動に参加してくれています。

「日本一働きたい会社」の社長が重視する、経営のポイント

さて、ここからは日本一働きたい会社を目指すために重視してきたポイントを申し上げたいと思います。
ひとつは「内発的動機」。LIFULLでは、「経営理念」と「個人の夢」を上手く重ね合わせた企業活動にするための制度・施策をつくっていますが、そのベースとなる考え方が内発的動機を引き出すことにあります。社員一人ひとりの「私はこうしたい、こうなりたい」を最大限引き出し、実現の邪魔をしないということを人事ポリシーでも明確に謳っているのです。

ただ、実践はものすごく大変です。1000名超の会社で一人ひとりの希望を聞くのは、時間もかかりますし、「異動したい」「キャリアチェンジしたい」という希望を叶えるのも簡単なことではありません。それでも私たちが続けているのは、トップダウンで個人の仕事やキャリアを決め続けていると、次第に社員の自発的な気持ちを削いでしまうから。すると、当然パフォーマンスも下がります。そうならないために、大変だけどやり続ける覚悟でいます。

また、「価値創造力=人×情熱×仕組化」という私オリジナルの方程式についても紹介させてください。なぜこの方程式が必要だったかと言えば、私は「リーダーや社長がなすべきことは何か」ということを創業期から考え続けてきたからです。というのも、日々社長は人・モノ・カネを考え、マーケティングにトラブルシューティングにと、あれもこれも考えなければならない。何を優先順位にして進めていけば良いのか分からなくなってくるような毎日を繰り替えしてきたからこそ、リーダーの役目を考え続けていたんです。

結局、人々が集まってやるべきことは、「社会的価値の創造」に他なりません。この価値創造を最大化するために、最も重要なものが方程式における右側の3つ。前から順番に大事なものと置いておりまして、1番は他でもなく人。人に注力することが、企業として成長して社会を変えて行く原動力になります。次に情熱。情熱を持ってチームを熱くしていく力がある、動機付けの強い会社をつくるのもリーダーの役目だと起きました。そして最後が仕組化(BPR)。

この方程式は掛け算なので、1×1×1では意味がありません。つまり、どんなに優秀な人が入っても、たった一人が情熱を持って働くだけでは、それなりの価値しか生まれないということです。経営者はこの3つを高め続け、価値創造の大きさを何十倍、何百倍と大きくしていくことこそが役割なんだと捉えています。もちろん、実際はもっと細かく複雑なのですが、究極的にシンプルにまとめていくと、この3つに集約できるのではないでしょうか。

失敗を糧に成長できる会社、利他と利益をバランスできる会社こそ、“働きたい会社“

また、補足的ですが、LIFULLの社内でよく会話される基準として「薩摩の教え~男の順序~」というものがあります。もちろん今は男女平等の時代ですので、“男女(人)の順序”でございますが、これは優れた人物像を示したもの。一番は、「何かに挑戦して成功した人」と至極当たり前ですが、その次に来る二番目は「何かに挑戦して失敗した人」とあります。つまり、結果がダメでも挑戦をした人は偉いのだということ。三番目の「挑戦していないが、挑戦の手助けをした人」も評価されるべきですが、それより下にくる「何もしない人」や「何もせず批判するだけの人」になってはならないという意味だと私は解釈しています。先ほどお話したように、「100人の経営者をつくる」とは、失敗も糧にしながら真の経営者へと成長できるチャンスの提供でもあり、それはこの薩摩の教えを企業文化として示したものでもあるのです。

さて、ここまで様々な観点でお伝えしてきましたが、私から最後にお伝えしたいのは、「利他主義で企業経営は成り立つのか」というテーマです。「そうは言っても経営のシーンでは自社の売上・利益をあげなければならず、どちらを取るべきかと悩みませんか?」と、よくご質問いただくのですが、私はいつもはっきりとこう申し上げています。「悩みません」と。なぜなら、両方やるのが当然、それが事業経営だからと振り切っているからです。

正義なき力、つまり「金だけ儲かればいい」という状態は“暴力”です。力なき正義、つまり「お客様に喜ばれているけれど売上が上がらず、経営が傾き社員が辞めていく」という状態は“無力”です。このように、どちらか片方だけの状態は不健全。正義も力も両方を持つこと、“論語”も“そろばん”もバランス良く実現させることが本当の経営だと考えています。

私からお伝えしたかったことは以上です。「働きたい会社」を実現してきた詳細については、この後、羽田からお話させていただきます。本日はありがとうございました。

――次回は、人事本部長の羽田氏による講演の様子をお届けします。

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