毎月の給料に加え、日本では通常、夏と冬の年2回支給されることが多いボーナス(賞与)。それが、突然カットされることは起こり得るのでしょうか?それを知るには、ボーナスや賞与の法的な位置づけを明らかにしておくことが必要です。
ボーナスや賞与には、どういう意味があるの?
日本では正社員に給料や残業代などに加え、ボーナスや賞与などの特別な給付が行われることがあります。このボーナスや賞与は、労働に伴って法律上当然に発生するものではありません。
つまり原則として、当然、ボーナスや賞与を支払う法律上の義務は企業側にはないのです。では、このボーナスや賞与には、どのような法的な意味があるのでしょうか。これは給付の内容によって異なります。
基本的に、会社から使用者の裁量に任されている「恩給的」な意味しか持たない場合は、使用者の判断で支払わなくても構いません。ボーナスや賞与は元々、この使用者からの恩給的性質が強く、プレゼントとしての意味合いのものになります。
賞与にはどんな種類がある?
賞与には大きく分けて以下の3種類があります。それぞれの特徴と違いを把握しておきましょう。
基本給連動型賞与
「基本給連動型賞与」とは、基本給の金額に応じて支払われる賞与です。働きの評価を反映する「評価係数」などを計算に入れて、評価が高い人に多く支給されるよう調整することもあります。
決算賞与
「決算賞与」とは、決算に連動して支払われる賞与です。決算の結果が好調の場合に、その利益の一部を社員に還元するために支払われる賞与で、決算月の前後に支払われます。
業績連動型賞与
「業績連動型賞与」とは、部門ごとなどの業績に応じて支払われる賞与です。営業利益や経常利益などを基準に計算されます。
賞与の額を決めるときの基準は?
賞与の金額の計算に用いる「基準となる数字」は、賞与の種類によって異なります。
例えば基本給連動型の場合は、「基本給の〇カ月分」などの計算で求められます。基本給とは、手当などを除く給与額のことで、社会保険料などを差し引く前の金額です。
業績連動型であれば、営業利益や経常利益などを基準に計算されることが多いですが、企業ごとに計算式が異なります。
決算賞与についても、給与や勤続年数などに応じて金額を決める場合や、全社員に一律の金額を支給する場合など、基準は企業ごとにさまざまです。
賞与の平均支給額は?
厚生労働省が公開した「賃金構造基本統計調査」によると、正社員・正職員の賞与(年間賞与その他特別給与額)の平均は101.5万円です。
同調査によると所定内給与額が32.7万円なので、企業は平均で約3カ月分の賞与を支給していることになります。
ただし、大企業の方が賞与金額が多い傾向です。同じ資料によると、企業規模が10~99人の会社の賞与平均は「65万7,500円」ですが、1,000人以上の大企業の賞与平均は「144万9,600円」と、約80万円の差があります。
参照元:賃金構造基本統計調査 / 令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 雇用形態別|厚生労働省
一般的な賞与の査定期間・支払い時期は?
賞与の査定期間や支払い時期に決まりはありませんが、多くの企業では「夏のボーナス」として6~7月ごろに1回、「冬のボーナス」として12月に1回支給します。
賞与の計算に用いる査定期間は、夏のボーナスなら「前年10~3月ごろ」、冬のボーナスは「4~9月ごろ」です。
企業によっては「春のボーナス」も加えて賞与を年3回支払うケースや、年末に1回だけ支払うケースもあります。
賞与の手取り額や社会保険料を計算する方法
賞与は、通常の給与と同じように社会保険料や所得税の対象です。そのため、額面から社会保険料や税金などを差し引いてから支給します。賞与の「手取り額」の計算式は以下のとおりです。
手取り額 = 総支給額 -(社会保険料 + 源泉徴収税額)
社会保険料とは、健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料・雇用保険料の4つの合計金額です。
健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料の3つについては、額面の賞与から1千円未満の端数を切り捨てた「標準賞与額」に、保険料率を掛けて計算します。
雇用保険料についてはそのまま「額面の賞与」に対して保険料率を掛ける計算式です。
源泉徴収税については、前月の給与と扶養親族の人数を基準に、税率を掛けて計算します。源泉徴収税の計算方法について詳しくは以下の記事を参照してください。
ボーナスや賞与が「賃金」の性質を持つ場合は?
一方、「賃金」として扱われる場合は、給料や残業代などと変わらず、労働基準法上の規制を受けるので、賃金の支払いに関する原則が適用されます。使用者は法的な支払い義務を負い、労働者は使用者に対して未払いのボーナスや賞与の支払を請求できることになります。
ただ、ボーナスや賞与の給付義務を定める法律はないので、労働契約や就業規則などにボーナスや賞与を支払うことが明記されている場合には、使用者は法律上の支払義務を負うことになります。
中小企業などでは、もちろん労働契約や就業規則に、「業績次第ではボーナスを支給しない」旨が明記されていれば、業績悪化時のボーナス支給義務はありません。
社員がボーナスを請求できるケースとは?
労働基準法第11条によれば、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と規定されています。つまり、労働の対償(対価)として支払われるボーナス(賞与)は、賃金に含まれることになります。
ボーナスや賞与が労働契約や就業規則に支給基準などが明らかにされている場合、労働の対価として賃金に該当し、使用者は支払義務を負うのです。
逆に、ボーナスや賞与が労働契約や就業規則などに明記されておらず、使用者による恩給的なものである場合は賃金には該当せず、会社は支払義務を負いません。
要するに、労働契約や就業規則などでボーナスや賞与の支払額や支給基準、支給条件、支給時期が明確に定められている場合は賃金に含まれることになり、社員には未払いボーナスを請求する権利があると言えます。
労働契約や就業規則などにボーナスや賞与に関する定めがなくても、例えば、すでに10年にわたって年2回のボーナスや賞与の支給が労使慣行となっている場合は請求できるケースもあります。
この労使慣行は、一定の事実や取扱いが長期間にわたり継続的に反復して行われ、労使双方が異議なく受け入れて当事者間の約束事として承認されている場合は「黙示の合意」が成立、または民法92条の「事実たる慣習」として労働契約の内容となり得ます。
労働契約や就業規則などの確認をおすすめ!
以上より、ボーナスや賞与が賃金に含まれるかどうかが、非常に重要なポイントです。この確認は、労働契約や就業規則に明確に規定されているかどうかです。
また、労働組合と会社との合意事項を定めた「労働協約」にボーナスや賞与に関する取り決めが記されていることもあります。労働組合に加入しているなら、労働協約も確認しましょう。
もしボーナスの支給がされなかった際に、雇用主との認識のすれ違いを産まないためにも、充分に規定を理解しておくことが従業員には求められています。
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